非正規雇用労働者(派遣・パート・アルバイト)人口は全労働者人口(15歳以上)の37%(2016年3月時点)だそう。
私は、そんな非正規雇用労働者として働く50代の男です。IT業界で正社員として働き、転職を重ねるうちに「派遣社員」や「契約社員」として働くようになりました。たまたま、流通業界の知識があったため、その知識を活かしIT業界で仕事をしていました。IT業界を卒業した後も、別の業界(主に製造業)で派遣社員として働きました。
そんな私の派遣・契約社員といった非正規雇用として働いた経験をお話ししたいと思います。
「派遣社員はただの便利屋」
私が最初に働いた頃のIT業界は慢性的に人不足でした。取引先が発注するシステム案件は実に様々です。その案件にマッチする人員の確保はシステム開発業者にとって最重要課題です。案件を受注する度に開発要員を採用・教育する時間的・コスト的余裕はありません。そこで「派遣社員」や「契約社員」の出番です。
取引先が要求するスキルを持った要員が社内にいない場合、システム開発業者は社外に戦力を求めるのです。多くの場合、「人材派遣会社」から要員を「調達」します。そう、正に足りない部品を他所から取り寄せるように「人を調達する」のです。
人材派遣会社には、様々なスキルを持ったその道のエキスパート(技術者)が登録しています。金融システムに長けた人、流通業界、生産管理業務、Webデザインなど多種多様です。そのたくさんのエキスパートから、システム開発業者は欲しい人材を人材派遣会社と交渉して「調達」します。
「こんな人材が欲しい」というシステム開発業者。「こんな人たちがいます」という人材派遣会社。「こんな会社が貴方を欲しがっています」と声をかけられる派遣登録社員(技術者)。
この三者の思惑が一致した時に「派遣労働社員(派遣技術者)」が出来上がります。逆に言えば、システム開発業者のニーズ(市場のニーズ)に一致しない技術者はいつまで経っても声がかかりません。
正社員のスキルアップは会社がある程度バックアップしてくれますが、非正規労働者は自ら進んで時代のニーズに取り残されないようスキルを磨き続けなければいけないのです。
私も何度か経験しましたが、面接まで辿りついてもほんのわずかなスキルとニーズのアンマッチで採用されないケースもあるのです。何度も何度も応募と面接を繰り返す日々。新卒採用と同じ苦しみを再びこの歳で味わうとは…。
採用された派遣技術者は現場で重宝がられます。なぜなら雇用するシステム開発業者の要求と派遣技術者のスキルが一致する即戦力だからです。現場に着任してわずかな説明を受けただけで即仕事をこなす(こなさなければならない)。
欲しいタイミングで欲しいスキルがある。正に「便利屋」です。
「”雇う側(会社)”にとって派遣社員を雇うメリット」
派遣技術者(派遣労働者)は雇う側にもメリットがあります。時給・月額単価契約で雇用しているので、その他の社会保険料や賞与計算、退職積立金等煩雑な給与計算業務が一切不要です。極論すれば残業計算すら不要です。一ヶ月に何時間働いたかを人材派遣会社に報告すれば後は人材派遣会社が派遣労働者との取り決め(「労働条件通知書や就業条件明示書」)によって給与計算を代行してくれます。この点においても派遣労働者は雇う側にとって「手間のかからない便利な存在」なのです。
もうひとつ、派遣労働者が便利な点があります。「有期契約」であるという事です。
正社員の場合、入社から定年までの長期間の雇用になります。それに対し、派遣労働者は三ヶ月から半年単位の契約を雇用側と結びます。どういう事か?というと、正社員はある案件の仕事が終わって次の案件が始まるまで雇う側は、仕事の有無に関わらず、社員に給料を払わなければなりません。
派遣労働者は有期契約なので、案件の終了(契約満了)とともに「ハイ、さよなら」。実作業の終了は給与支払いの終了と同じです。雇う側は作業終了時点でお金を払う必要がなくなります。
私の経験では、契約中の案件の目途が見えてきた時点で次の案件を人材派遣会社に探してもらうようお願いします。運よく次の案件にありつければよし、無ければ即無給。人材派遣会社との契約次第では雇用保険を受給することも出来ますが、それにも期間等の条件があります。
何より、雇う側にとって派遣労働者が便利なのは有期契約と同時に「代替え可能」な事です。
契約期間満了時点で雇う側の選択肢は、大きく分けて「契約延長」と「契約打ち切り」の二つになります。「契約延長」は同じ派遣社員を次の契約期間まで新たに契約すればいいだけです。
「契約打ち切り」には実はウラがあって、本当に案件の終了とともに人の雇用も打ちきる場合。この場合は人材派遣会社にとっても派遣労働者にとってもデメリットしかありません。メリットは雇う側にだけあります。
必要な時にだけ必要な人材を集めればそれでいいのですから。繁忙期を過ぎれば後は正社員だけで通常業務を賄えます。
もうひとつの場合、人の契約だけ切って別の人と新たに派遣の契約を結ぶ場合があるのです。別の人とは、別の人材派遣会社かも知れなし、同じ人材派遣会社の別の派遣労働者かも知れません。いずれの場合もデメリットを被るのは契約打ち切りになった派遣労働者です。
つまり、派遣労働者は雇う側にとって、「欲しい時だけ必要な代替え可能な存在」なのです。
採用のコストも社員教育に必要なコストもかからない、外から欲しい時だけ欲しい人数を呼べる代替え可能な人材。それは人材と言えるでしょうか?
いいえ、ただの組織の「部品」です。
「派遣社員は自由なのがメリット。しかし不安定というデメリットが大きすぎる」
私が派遣社員という働き方を選んだ理由はいくつかありますが、その一つに「自由であること」があります。
人材派遣会社が提示したいくつかの案件から自分に合った仕事を「選ぶ自由」。これは正社員にはありません。
契約が終了して現場で引き続きの慰留をされても、その現場が自分に合わない、または、他に条件のいい案件があればそちらを優先して選ぶ事が出来ます。実際、私もそうしてより良い条件やステップアップ出来る案件を選んだ経験があります。
しかし、「選ぶ」という自由にもリスクはあります。選んだ責任は自分が負うという事です。ふたつの案件から一方が自分にとって有益に見えても、実は隠れたリスクがあった場合、それを選択した自己責任になります。正社員なら周囲の同僚に助けを求める事も出来るでしょう。しかし、派遣社員は周囲の助けを期待出来ません。派遣社員は孤独な存在です。同期入社も先輩も後輩もいません。
派遣社員は収入の面で不安定です。それは、前述の「欲しい時だけ必要な便利な存在」の通り、案件の切れ目が収入の切れ目に直結するからです。次の仕事まで貯金で食いつなぐ日々は心細いものです。
そして、派遣社員にはボーナス(賞与)がありません。ボーナスを見込んで大きな買い物も出来ません。退職金制度もありません。年収、生涯賃金の面で正社員と大きな差が出るのはこの部分です。
収入の格差は、生活の質を如実に表します。
具体的に言うなら、耐久消費財(家具や大型冷蔵庫)やクルマ、持ち家であったりします。
一人暮らし用の家具、家電なら揃えられるでしょう。私もそうでした。そして、パートナーも派遣社員だとしても、二人用の物なら揃えられるかも知れません。しかし、それ以上となると…。自分自身とパートナーの二人が派遣社員の場合、将来、家(マンション)を購入する事は出来るのか…。
派遣社員で続ける事は、自分とパートナーの将来の選択肢を狭める事になります。
「まとめ:派遣社員として働くなら覚悟をもて」
私はこれまで、派遣社員として働いて来ました。悪い思い出も良い思い出もあります。自由を享受する一方、孤独であったり収入が不安定であったりといったデメリットも分かっているつもりです。
その上で、派遣社員を勧めるか?という問いには、「否」と答えます。なぜなら、将来性がないからです。
もちろん、一部のスーパー派遣社員は一生生活に困らないだけの収入を得る事が出来るでしょう。それは、人並み外れたスキルを身に付けたごくわずかな人たちのお話しです。
これから派遣社員で働こうとする人たちには、自分の将来あるいはパートナーの将来に責任を持つ覚悟、そして一生モノのスキルを身に付ける覚悟を持って臨んで欲しいと思います。